ピアノのメカニカルトレーニングについて †ピアノ演奏のときに、指が正確に速く動くか。これらのためのトレーニングをメカニカルトレーニングと言う。 しかし音楽家として必要な能力は、他にもたくさんある。
こうして見ると作曲〜演奏というのは、いくつもの全く異なる能力が必要となる複合的な芸術活動であると言える。だから、どうせ時間を費やすならばたくさんの能力が同時に訓練されるようなメソッドを採用するのが望ましい。 ハノンの問題点 †まず、ハノンの問題点をいくつか挙げてみよう。 ハノンのほとんどの曲は二度ずつ音が上がっていき、折り返し地点で今度は二度ずつ音が下がっていく。この上がっていくときの指の動きが一定なので自分が何の音を鳴らしているか意識しなくとも弾ける。メカニカルトレーニングとしてはこれでもいいのだが、これだと聴音の訓練にはならない。自分の鳴らしている音を聴いて、一音、一音、何の音か理解しながらトレーニングすれば聴音の訓練になるのに、非常にもったいない話である。 次に、ハノンにおいて、ほとんどの曲は右手と左手が同じ音(オクターブ違いで)である。これでは同時に二つの音を聴きとる訓練にはならない。そういう意味でやはり聴音の訓練としても不十分である。 それから、黒鍵を弾く練習にならない。ハノンのうち前半は白鍵ばかりである。この意味においてメカニカルトレーニングとしても少し物足りない。 また、同じ動作の反復なので1小節目を読んだあとは、楽譜を見ずとも楽々弾けてしまう。この意味で初見トレーニングにもならない。 ハノンのメリット †逆にハノンのメリットを挙げてみよう。
ピシュナのメリット †まず、ここで言うピシュナとは次の楽譜を意味する。
ピシュナはスケール練習になるし、右と左で異なる音を鳴らすので右と左で独立した音を演奏する訓練や、2音の聴音の訓練にもなる。(そういう意識をもってやれば) また、ハノンのような単調な繰り返しではないので、初見演奏の訓練にもなる。(そういう意識でやれば) ピシュナのデメリット †ピシュナのデメリットを挙げるとすれば初見能力がないと演奏できないことが挙げられる。ハノンほど優しくない。 また、ハノンほどメカニカルトレーニングに力点がないので、音の粒を揃えることや、指の筋力的なトレーニングにはなりにくい。 結論 †「ハノンか、ピシュナか」というのはピアノ講師の間でも意見がわかれるところであるが、学習の段階に応じて切り替えればいいのではないかと私は思う。 それより、「ハノンを何の訓練のつもりでやっているのか」(単なるメカニカルトレーニングなのか、それ以上のものを求めているのか)というのはもっと意識すべきだと思う。 ピアノの講師によっては「ハノンは指のトレーニングなので、何の音が鳴っているかとかどうでもいいので、ともかく、指を動かしましょう」みたいな指導がなされることがあり、非常に残念に思う。 それはハノンやピシュナに限らずであるが、何らかの曲をピアノで演奏する訓練をしている以上、いくつもの音楽的な能力が同時に鍛えられている(鍛えられる)はずである。音楽家にとってどのような能力が必要とされるのかを考え、そしてそれを自覚しながらトレーニングすべきであろう。 |